国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改訂版~

 結局のところ、陛下とは会えないまま、すれ違いになってしまっていた。午後も会えずに、再度訂正された契約書をアンドレから手渡された。

 「騎士団の練習があるから」と言って、帰っていったアンドレに「魔術師団所属ではなかったのですか?」と聞くと、「兼任している」と言っていた。

 ワーカーホリックな彼を見て、同じ匂いを感じた私は、薄ら笑いを浮かべて微笑んだが、彼は何を勘違いしたのか「私には婚約者がいますから」と言って去っていった。

 帰ろうとして部屋を出ると、陛下が戻って来ていたが、「今日は疲れただろうから、休むように」と言われてしまい、自分の部屋へ戻った。

 隣の部屋で陛下が働いていると思ったら、眠れなかったが、昼間に出掛けて疲れてしまったのか、いつの間にか眠っていた。

 物音がして目が覚めると、隣でパタリとドアの閉まる音が聞こえて、陛下が自分の部屋へ戻ったのだろうと思った。

 窓の外は既に暗い。ランプやロウソクの明かりを頼りにして生きている世界である。こんな真夜中に見た目小学生の陛下が部屋に1人で戻るのかと思うと、ちょっと心配になってきて目が覚めた。

(そりゃ、魔術師じゃなくても襲うかもね)

 起き上がった私は、そっと扉まで近づくとドアを開けて隙間から廊下を見てみた――誰もいない。

 ドアが閉まった音はしたのに、陛下が私室に入った音はしなかった。

(聞こえなかっただけで、もう部屋へは戻ったのかしら? それとも、何処か別の場所へ行った?)

 よく分からずに、私はドアを閉めてベッドへ戻った。ベッドへ戻る前に、何気なく窓から中庭を眺めていたが、気がつくと陛下が噴水の前にあるベンチに座っていた。

(何やってるのよ?! こんな夜中に!! あれじゃ襲ってくれって、言っているようなもんだわ)

 私は夜着にローブを羽織ると、庭へ下りて陛下のいる噴水へ駆けつけた。

「どうした? 眠れなかったのか?」

 陛下はベンチで眠い目を擦りながら、こちらを見ていた。月光に照らされながら、半分寝ている陛下は、危険だと思った。

「陛下!! お部屋に戻りましょう。風邪を引いてしまいます」

「嫌だと言ったら?」

「!!」

「すまん・・・・・・言ってなかったが、これも東の魔術師を、おびき寄せるための罠なんだ」

「罠?!」

「側には魔術師が控えている。悪意を持った魔術師が中庭へ入れば、自動的に魔方陣が発動して捕獲できる仕組みになっている。『いくら高い技術を持った魔術師でも、この術式には抗えまい』と、アンドレが言っていた」

「先ほども言いましたが、お部屋へ戻りましょう。風邪を引いてしまいます」

「すまないが、それは出来ない。魔術師に会いに行くことすら出来ない私は、こうするより他ないんだ」

 私は溜め息をつくと、陛下の手を取ってマッサージを施した。子供はこうしているだけでも眠くなるはず。

 前世では、甥っ子姪っ子にイタズラされたり、泣かされたりして大変だったことを思い出していた。寝ない子には、手のひらマッサージをしてあげたことを思い出しながら、陛下にマッサージをしていた。

「ぬくいな・・・・・・人肌は、気持ちいい」

「陛下、言動がオジサンですよ」

「オジサンか?」

「ええ、オジサンです」

「オジサンで構わない。こっちへ来てくれ」

 陛下は、私の手を引っ張って横に座らせると、手を握ったまま私に寄りかかって、ウトウトしていた。

「マッサージを続けてくれ」

「かしこまりました」


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