国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改稿版~

東の森へ

 部屋へ戻って、生活必需品や母が残してくれた財産をバッグに入れると、最後に契約書の写しを突っ込み、肩から下げて夜が明ける前に部屋を出た。昨日は、あれから一睡も出来なかった。もう戻ってこれないかもしれないと思いつつも、私は城の門をくぐった。

 向かう途中にある街や宿屋に泊まりながら、1週間かけて辿り着いた先には、森の樹海が広がっていた。その少し手前にある村で、食料を調達してから、魔術師が住んでいる森の中へ入る予定だった。

 村へ入ってから、誰も見かけない事を不審に思いつつも、私は村人が住んでいると思われる、村の入り口に一番近い屋根が藁葺きになっている家を訪ねた。

「あの――すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」

 全ての家の前で同じ事をやってみたが、誰も出て来なかった。

(警戒している? それにしては、人の気配が感じられないわね)

 私が村を一周して再び森の入り口へ戻ってくると、おばあちゃんが入り口に1人で立っていた。

(まさか――魔術師?)

「誰もおらんかったじゃろ?」

「へ?」

「この村は、東の魔術師が住んでいる家に1番近くての。危険じゃから、みな別の村に移ったのよ」

「え?」

「お前さんは?」

「あの、東の魔術師に会いに・・・・・・」

「やめえ、やめえ!! 死にに行くようなもんじゃよ」

 私は、おばあさんの圧に耐えられずに、帰らされそうになっていた。

「おばあちゃん・・・・・・じゃなくて、おばあさん。私、行かないと行けないんです」

 バッグから宮廷魔術師の身分証を取り出して見せると、おばあちゃんは目を細めながら渋い顔をしていた。

「死にに行くようなもんじゃ。あんたみたいに若いモンが命を粗末にするんじゃない」

「でも・・・・・・行かなければ、きっと後悔すると思うんです」

「そうかい・・・・・・そう言えば、この村で何をしてたんじゃ?」

「ここから魔術師の家まで、どれくらいかかるか分からなかったので、少し食料を分けてもらおうかと思って村人を探していたんです」

「なら、これを持っていきなさい」

 おばあちゃんは、自分が背負っていた籠から人参と大根を取り出すと私に押しつけた。

「あの、おばあさん。お金を・・・・・・」

「いらん、いらん!! もしどうしてもと言うなら、生きて帰って来ておくれ」

「・・・・・・分かりました。ありがとうございます」

 私は、おばあちゃんが自分が帰って来れないだろうと思っていることに気がついていた。

(防御結界張れるから大丈夫だと思うんだけどな・・・・・・そんなに強いのかな? 東の魔術師って)

 私は不安になりつつも、目の前にある森の中へ入って行ったのだった。


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