国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改稿版~

東の魔術師

 10分も歩くと、青い霧に包まれて前が見えなくなっていた。私は防御魔術が付与されているローブを頭から被ると、コンパスを頼りに森の奥へと進んだ。1時間も歩くと、目の前が開けて小さな小屋が現れた。すぐそばには小川も流れている。

(小屋の中に誰かいる・・・・・・)

 私はローブの前を合わせると、窓から中を覗き込もうと思って、小屋の入り口の反対側へ回った。


バンッ――


 覗く前に開いた窓からは、見慣れた顔が私を見下ろしていた。

「ガルシア先生?!」

「とりあえず、中に入ったらどうだ? そんな格好じゃ風邪ひくぞ」

 ローブの中に着ていた衣服は、青い霧によって全て溶けていた。

(小説とは全然違うわ・・・・・・これじゃ、ポルノ小説じゃない)

 何が何だか分からずに、心の奥底で悪態をついた私は、部屋に入る前に盛大なクシャミをしたのだった。


*****


 私は先生から洋服を借りて部屋で着替えさせてもらうと、リビングで温かい紅茶を淹れてもらっていた。

「ガルシア先生、なぜ東の魔術師の家にいるのか、お伺いしても?」

「何故って・・・・・・そりゃあ、招かざる客が来たから、とりあえず空間転移魔術で来てみたのさ」

「では、やはり東の魔術師というのは・・・・・・」

「私だ」

 私は出された紅茶を一口飲むと、溜め息をついた。

「先生、なぜマルクス陛下に呪いなんてものを掛けたのですか? 先生は結界の外側に、興味なんて無かったですよね?」

「そりゃ、まあ、あれだよ。可愛い弟子を傷つけた奴らを放っておけなかっただけさ。ああいう連中は、一度痛い目見ないと、反省すらしないだろうから」

「やりすぎです!! 先生・・・・・・しかも、マルクス陛下は関係ないじゃないですか」

「関係なくは、なかろう? あいつの父親のせいじゃないか。あいつ以外に、罪を償える奴はいないと思ったんだ」

「やっぱり、私の為なんですね・・・・・・もう時効ですよ、先生」

「お前の心の傷は癒えたのか?」

「え?」

「裏切られた挙げ句、婚約破棄された少女の心の傷は癒えたのかと聞いている。誰かのせいにしたっていいんだ。そんな風に『お利口さん』に、ならなくていい」

「・・・・・・」

「宮廷魔術師なんて辞めて、今すぐ戻ってこい」

「駄目です。先生・・・・・・呪いを解くと、陛下と約束したんです。呪いを解くまで、宮廷魔術師は辞められません」

「呪いか・・・・・・」

「呪いの解き方を教えてください!!」

「何もせずとも、そのうち解けるだろう」

「自然に解ける魔術だったのですか?」

「いや、違う」

「月の光を浴び続けると解けますか?」

「それも違う。月の光は、一時的なものだ。月の光苔で解呪薬が出来る可能性があったんだが、そもそも光苔自体が、もう何処にも生えていないから不可能なんだ」

「でも、今、自然に解けるって・・・・・・」

「陛下次第かな。『真実の愛を見つけることが出来れば、呪いは解ける』そういう条件付きの呪いにしたんだ」

「先生・・・・・・国王陛下が真実の愛を見つけるのは難しいと思います。ほとんどの国王が政略結婚じゃないですか」

「政略結婚なら、真実の愛は見つけられないとでも?」

「・・・・・・」


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