国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改稿版~

買い出し

 陛下から「休むように」と言われて、次の日は強制的に休みを取らされてしまっていた。実験に使う薬草を買い足そうとしたら、アンドレに追加の薬草をお願いされてしまい、まあいいか・・・・・・。と思いながら市場を歩いていると、私の前をフード付きのローブを着た少年が横切った。

「へ・・・・・・ジーク様!! どうしてここに?!」

「抜け出して来ちゃった」

 私が驚いて市場を見回すと、はるか後方にアンドレが立っているのが見えた。あの赤髪は、遠くにいても分かるので、その点においてはありがたい。

「何やってるんですか?」

「たまには、ほら・・・・・・国民の様子を知りたいと思ってさ」

「私は買い物が終わったら、帰りますよ?」

「ああ・・・・・・持つよ」

 陛下は私が抱えていた薬草が入った買い物かごを持つと、市場の海産物や果物に目を輝かせていた。

「うわぁ・・・・・・どれも、うまそうだな」

「私のオススメは、ここの串焼きと、この先にあるフルーツです。内緒にしておきますので、食べていかれますか?」

「うん!!」

 陛下の顔つきは、少年の顔に戻っていた。もともと少年の顔だったが、表情がオジサンだったのだ。年齢通りの顔つきをする陛下に、私は少し戸惑っていた。

「ジーク様、これはイカの串焼きです。甘辛いソースが掛かってますが、中身は熱いので気を付けてください」

 私は屋台で串焼きを2本買って受け取ると、その内の1本を陛下に手渡してあげた。

「あつっ・・・・・・何だこれは。うまいな」

 陛下は他の人が毒見をした、冷めた料理しか食べたことがないと聞いている。こんな料理を食べたのは初めてなのだろう。目を丸くして固まっていた。

「ジーク様、お顔にタレが付いてますよ」

「ん・・・・・・どこだ?」

「ここですよ」

 私が右頬を指して教えてあげたが、陛下は別の場所を懸命に拭っていた。

「どうだ? 取れたか?」

 私は内ポケットから白いハンカチを取り出すと、陛下の頬を拭ってあげた。途端に陛下の顔が赤くなっていく。

「ジーク様? 暑いですか? お顔が真っ赤ですよ」

「なっ・・・・・・」

 私がそう言った瞬間、陛下の身体は大きくなっていった。朝の市場は人目があるため非常にまずい。私は素早く陛下を自分のローブの中へ隠すと、全速力で市場の端にある小屋へ向かった。卸売価格の交渉をするために使われる小屋ではあったが、幸い今の時間は誰も使っていなかった。

「陛下・・・・・・」

 陛下は成人男性の姿になっていた。慌ててアンドレを呼びに行って戻って来ると、陛下は再び元の姿へ戻っていた。アンドレは、万が一の時のために用意していた陛下の着替えを鞄から取り出すと、陛下に手渡していた。

「すまん」

「いえ、いい兆候だと思いますよ」

 そう言ったアンドレの言葉に、疑問を抱きながら陛下を見ると、何故か再び赤面していたのだった。


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