国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改稿版~

解呪薬の完成

 数日後。最終検査が終わったと知らせを受けた私は、居てもたってもいられず、休憩時間に研究室を兼ねている宮廷魔術師団の分室へ来ていた。

「お疲れ様です」

「あれっ、シャルロット様。今日は非番ですか?」

「休憩中なんだけど、解毒薬が完成したと聞いて、居てもたってもいられなくなって」

「分かります。完成品見たいですよね? 今、取ってきます」

 解毒薬を作成するにあたって、いつも相談に乗ってくれていたローランは、奥の棚から小瓶を取ってくると目の前にあるテーブルの上に置いた。

「ピンクのラベルの瓶が、元の姿に戻る薬で・・・・・・こっちの青いラベルが、月の光苔に近い成分の解毒薬。どっちも被験済みだし、成分的にも問題ないから、いつでも陛下に試してもらって大丈夫だよ。副作用が無いように作ったから、もしかしたら効かない可能性が、あるかもしれないけど」

「・・・・・・」

 何も分からないところからスタートして、何度も問題にぶち当たりながら、解毒薬を作っていた今までの苦労が自然と思い出されて、私は泣き出しそうになっていた。

「シャルロット様。感動の涙は、陛下が解毒薬を飲んで、元の姿へ戻った時のためにとっておきましょう」

「そうですね、ローラン様」

 ローランは侯爵家の出で、研究オタクと言われるほど薬草には精通していた。今回の薬の完成は、ローランの協力あってこそだった。確かに薬草以外に興味のないオタクだったが、私のような『異質』な存在にも、普通に接してくれる数少ない貴重な人間である。

「シャルロット、ここにいたのか」

「陛下?!」

 後ろを振り返ると、陛下が研究室へ入ってくるところだった。後ろにアンドレがついて来ているので、おそらくこれから出かける所なのだろう。

「午後の予定が変更になったんだ。明日行く予定だった視察に向かうから、シャルロットは城で待機しててくれ」

「承知致しました。陛下、解毒薬が完成しました。後ででいいので、飲んでみてください」

「本当か?」

「はい。副作用などはありませんので、ご安心ください」

「じゃあ、飲んでみるか」

「陛下、今から視察に向かわれるのでしたら、後でも・・・・・・」

「そうだな。作成にはシャルロットも関わったのであろう? それなら、大丈夫だと思う。この2つを飲めばいいのか?」

 陛下はピンクのラベルの瓶を飲むと、続けて青い瓶の解毒薬も飲みほした。

「!!」

 陛下の足下から術式が現れ、空中へ舞った。空中で術式の紋様が壊れて、呪いが解呪出来たかに思われたその時、何かに阻まれて解呪出来ずに術式は陛下の中へ戻っていった。

「どうかしたのか?」

「陛下・・・・・・申し訳ありません。解呪が出来ませんでした。失敗です」

「シャルロット?」

 落ち込んでいる私を、陛下は心配そうな瞳で覗き込んでいた。

「いえ。その・・・・・・ピンクの瓶は、惚れ薬に近い成分でしたので・・・・・・少しお待ちください」

 私は、奥にある戸棚へ行って、万が一の時のために用意しておいた解呪薬の解毒薬を取り出していた。

 陛下はジッとこちらを見ていたが、しばらくすると近くへ来て「手伝おうか?」と、聞いてきた。

「ありがとうございます。大丈夫です、見つけました。陛下こちらを・・・・・・」

「シャルロット、君が好きだ」

 陛下は私の目を見ながら言うと、私の手を握っていた。

「え? まさか、薬の副作用? そんなはずは・・・・・・」

「私は、正気だ。姿は戻らなかったが、君の薬を作る真摯な姿に、見惚れてしまったみたいだ。私と一緒になって欲しい」

「陛下、こちらをお飲みください」

「いや、だから・・・・・・」

「お願いします!!」

 私の必死な姿に気圧されたのか、陛下は出された解毒薬を飲んでくれた。

「シャルロット、私の気持ちは変わらない。君が好きだ。結婚してくれ」

(うそぉ・・・・・・なんで効かないの?!)

「陛下のお気持ちは分かりました。考えておきますので、視察へ向かってくださいませ」

「・・・・・・分かった」

 陛下がアンドレと一緒に視察へ向かうのを確認してから、同僚のローランに出かける旨を伝えると、私はガルシア先生に会いに東の森へ向かった。向かう途中、東の魔術師宛に手紙を書いたが、おそらく手紙が届く前に着いてしまうだろう。

 私は陛下に惚れ薬を飲ませてしまったかもしれないと思いながら、東の魔術師が住む東の森へ向かったのだった。



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