国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改訂版~

西の魔術師

 数日後。東の森へ向かう途中で、再び青い霧が出てきたが、服が溶けることはなかった。その代わり、以前より息苦しい感じがしていた。私はあまり得意でない光魔法を操って自身を浄化しながら、ガルシア先生の小屋へ向かった。

 小屋へ辿り着くと、部屋の中は暗かった。ドアの前でノックをして声を掛けたが、誰も居ないようである。

(やっぱり、手紙が着く前に来ちゃだめよね・・・・・・)

 そう思いながら小屋の前に立っていると、風が吹いていたせいかは分からないが、ドアは自然と内側へ開いた。

「おじゃましまーす」

 中で待たせてもらおうとして入ったが、小屋の中は薄暗くて視界が悪かった。誰も居ないことを確認しながら部屋の奥へ進むと、ドアが勢いよくしまって、部屋の明かりが一斉に点いた。

「初めまして。暴虐の魔術師さん?」

「どちら様?」

 肩まである茶色い髪を縦ロールにした、見た目おばさんのローブを羽織った人物は、スカートがひざ丈のフリフリの洋服を着ていた。

「私を知らないの? 西の魔術師と言われているハイディよ」

「ああ、魔術師殺しと言われてる?」

「その通り名、実は好きじゃないの。やめてもらえる?」

 私は自分の通り名と同じくらいインパクトのある西の魔術師を噂で知っていた。若者向けのフリフリレースが付いた服を着ているおばさんを見て、溜め息をつきそうになって、息を飲み込んだ。

「それで? ゴスロリおばさんは、なんで東の魔術師の小屋にいるの?」

「ゴスロリ? 決まってるじゃない、待ち伏せよぉ。私が東の魔術師を倒して、世界一の魔術師になるんだから。待ってたら、暴虐の魔女も来るしぃ。私って、超ラッキー」

「はぁ・・・・・・」

 私は溜め息をつくと、目の前に手を翳した。

「風よ、彼のものを西の端まで吹き飛ばせ!! ウィンドブリザード!!」

「や、やめっ・・・・・・ああああああっ」

 西の魔術師の足元から、つむじ風のような風が巻き起こると、空の彼方へと飛んで行った。

「やるじゃないか」

 ドアから入って来たガルシア先生は、私を見ると笑いながら私の頭を撫でていた。

「先生!! 見てたんなら、助けてくださいよ」

「私の生徒に助けなんて必要ないだろ? 彼女はCランクの魔術師だ」

「それで西の魔術師なんて言ってるんですか? しかも二つ名が魔術師殺し?」

「あいつは宣伝が上手いんだ。自分で自分の噂を広めているのさ」

「えっ、なぜ?」

「分からん」

 ガルシア先生はそう言うと、口を大きく開けて笑っていた。


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