国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改訂版~

第二の故郷

 週末になってソレイユ村へ行くと、ガルシア先生が神父の格好をして教会で働いていた。「神父役を先生がやるのですか?」と聞いたら、「村長に断られた」と言っていた。

 いくら田舎といっても、信仰していない宗派の、しかも神父役を魔術師の先生に、やらせる訳にはいかないとか、そういう話だった・・・・・・それは、そうだろう。

「シャルロット、元気か?」

「はい。先生もお元気そうで、何よりです」

「毎日、生徒と接しているからな。落ち込んでる暇も無い」

「何かあったんですか?」

「優秀な弟子を、そこにいる若造に獲られたからな。シャルロットが幸せになるのは、素直に嬉しいが、納得はいっていない」

「先生・・・・・・結局、先生の弟子にはなれませんでした。すみません」

 先生に、面と向かって言っていなかったが、私は先生の弟子になりたかったのだ。その気持ちは、今も変わらない。

「いや、いいんだ。シャルロットは、今、幸せか?」

「はい、とっても」

「幸せになれよ。シャルロットの両親も天国で、きっとシャルロットの幸せを願っているはずだ」

「はい・・・・・・」

 私は零れ落ちる自身の涙を掬うことが出来ないまま頷いた。セバスの話では、両親は私の冤罪を証明するために、ほとんどの時間を費やしていたという。会えないまま亡くなってしまった父のためにも、これからは幸せになろうと思った。

 私はメリーの住んでいた家に着くと、軽く掃除をして、馬車で待っていた陛下を家の中へ案内した。村長が定期的に掃除をしてくれていたおかげか、少し埃を被っていただけで、家の中は綺麗に片付いていた。

「メリーが、私に良く淹れてくれた紅茶です。メリーみたいに、上手くは淹れられませんでしたが・・・・・・」

「美味しい」

 陛下は私の淹れた紅茶を飲んでいた。メリーの家で紅茶を飲んでいる陛下が、何だか可笑しかった。

「それにしても・・・・・・よかったのですか?」

「何がだ?」

「ここって、キルア国ですよね? セスノット国の国王が、他国の領土で結婚式を挙げていいものかと思ったのです」

「ああ、それなんだが・・・・・・ソレイユ村の一部をセスノットに譲って貰ったんだ。この先が、ちょうど国境付近にあたるし」

「一部?」

「教会と、この家の領地だけだ」

「良くそんな事が出来ましたね」

「スタンピードの件があったからな。上手く交渉して、譲って貰ったんだよ」

「脅したんですか?」

「まさか。平和的に話し合っただけさ」

「ソレイユ村は一部はキルア国で、一部はセスノット国になったってことですか。ソレイユ村も大変ですね」

「そうでも無いだろう。管理する村長の仕事は増えてしまったかもしれないが、村民の生活に何ら変わりは無いだろうからね。セスノット国の部分は課税対象から外したんだ。むしろ、感謝されていると思う」

「まさか結婚式は、税が軽くなってバンザイって、事ですか?」

「いや、純粋にめでたいと思っている人も多いだろう。みんなシャルロットの事を知っていたからな。スタンピードの時に活躍したんだろう?」

 私は魔術学園を卒業して、魔物を屠り続けていた事を思い出していた。1年半前の事なのに、随分と昔のことのように思える。

「そうですね。あの魔物の群れの事は、もう思い出したくもないです」

「・・・・・・まあ、明日の結婚式もあることだし、今日はもう寝るか」

「マルクス様!! 部屋は別々ですからね!!」

「はい、はい。お休み、シャルロット」

 陛下は私を抱き寄せて額にキスをすると、客室で早々に眠ってしまったのだった。


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