国外追放から帰ってきた伯爵令嬢は、スタンピードをやっつけて宮廷魔術師になりましたが、平凡な生活を目指していたので、32才年下の国王陛下に婚約を迫られて困っています!!~改稿版~

図書室へ

 放課後。私は図書室へ来ていた。魔術の訓練が上手くいかなくて──何か良い方法が見つからないかと、しばらく魔術書を探し回っていた。

 歴史書と法律書の間にある詩集が並んでいる棚に、背表紙が真っ黒い本が置いてあるのが気になって手に取って中をパラパラと捲って見ていたが、劣化したページの端が黄ばんでいるだけで中には何も書かれていなかった。

「戻した方がいいですよ。それは、黒魔術の本だと思います」

 後ろから声が聞こえて、驚いた私は思わず本を取り落とした。

「だ、だれ?」

「急に声を掛けてすみません。僕はリューン・グラスノーです。同じクラスの」

「は、はじめまして?」

「僕は貴方の斜め後ろの席に、いつもいるのですが・・・・・・存在感が薄くてすみません」

 私は黒縁眼鏡に髪を七三に分けた少年を見つめて、そう言えば、クラスにこんな人がいたな。と思っていた。

「あ、ああ」

「思い出していただけました?」

「うん。そう言えば、さっき黒魔術って・・・・・・」

(いにしえ)の魔術書です。他人を呪い殺せる魔術が書かれていると言われている本です。契約者か本を見ることを許された人間にしか見ることが出来ないと言われています」

「??」

「昔、魔術師は今よりもっと疎まれていました。何故だと思いますか?」

「試験の時、学園長がそんな事を言ってたわね。何故かしら? 分からないわ」

「魔術師は、昔は悪魔と契約しなければなれなかったからです」

「悪魔と契約?」

「つまり、代償です。何かを差し出す代わりに、悪魔と主従契約を交わし、人は魔術を使えるようになった」

「そんな話、今まで聞いたこと無いわ」

「口頭での伝承でしか伝わっていないので、お伽話のように思われているのだと思います。セスノット王国は先進国で、魔術師も少ないから、知らない方も多いのでしょう。現代では、普通に魔術を使える魔術師が増えてきましたし、そんな話は迷信だと言う人さえ出て来ているほどです────ですが、魔術師は元々、悪の権化のように言われていたのです」

「つまり、悪魔と契約しないと、この本の内容は読めないと・・・・・・」

「いいえ。取り決めた言葉を言えば、見えるようになります」

「誰にでも見えるの?」

「魔術を使える者ならば、誰でも見ることが可能です。けれど、この本は劣化が激しいので、もう使えなくなってるかもしれませんね」

「それにしても、何故こんな所にあったのかしら? 呪い殺せてしまうのでしょう?」

「さぁ・・・・・・それは、僕にも分かりません。黒魔術は、だいぶ前に禁止されたハズなのですが・・・・・・その本は、僕から先生に渡しておきます」

「ありがとう。リューン」

「いいえ。もしかして、シャルロット様は魔術書を探していたんですか?」

「ええ──シャルロットでいいわよ。結構探したけど魔術書は、見つからなかったの」

「そうでしたか・・・・・・たぶん、図書室に魔術書は置いてないと思います」

「え?」

「はい。昔、Sクラスの生徒が図書室にある魔術書で応用魔術を試した生徒がいたんですが、魔術を上手く調整できなかったのか、図書室が全焼してしまったことがあったんです」

「全焼? 本も焼けてしまったってこと?」

「はい。それからは、魔術書を図書室に置くのは禁止になったそうです」

「・・・・・・」

「教師塔にある魔術書を貸してもらえないか、先生に相談してみましょう。ガルシア先生なら、きっと相談に乗ってくれますよ」

「ありがとう」

「そうと決まれば、行動あるのみです!!」

 私はリューンに誘われて、ガルシア先生のいる教師塔へ、一緒に走って向かったのだった。


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