氷と花

恋の終わり 〜 "You shall not be here"

 いつだってマージュは、いつか自分がウェンストン夫人になるのだと信じて疑っていなかった。

 よく晴れた秋の正午、ダルトンの街にそびえる唯一の教会の前で、夫婦となる祝福を受けているお似合いの男女二人を涙にあふれた瞳でながめていても、その確信に揺らぎはなかった。

 ──だって、わたしがウェンストン夫人になるのには違いないわ。

 祝福に投げ入れられる穀物の粒が、雪のように新婚夫婦の上に降り注いでいた。

 軽やかな笑い声があちこちにあふれ、教会の鐘が盛大に鳴り響いて石畳の広場を揺らしている。参列者はそれほど多くはなかったが、誰もがよい身なりをしていて、花婿と花嫁の身分の高さをうかがわせた。
 それに比べると、マージュの服装はいささか地味だった。

 マージュの容姿は多少、おとなしい服装の方が映えると言ってくれたのは、ほかでもないフレドリック・ウェンストンそのひとだった……いままさに祝福を受けている新郎、本人だ。

 それなのに、なにをいまさら、フレドリックが気に入っていてくれていたドレスを着てここに立っているのだろう?

 フレドリックの隣では、国中の幸福を一身にあびたような輝かしい笑みを絶やさない花嫁がいて、もしこんな祝宴の場でなければたしなめられてしまいそうなほど、ぴったりと彼に寄りかかっている。

 マージュに足りなかったのは、なんだろう。

 もしかしたらあの花嫁のような大胆さかもしれないと思い、痛む心をおさえながら、唇をかんだ。
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