氷と花
まったく感情を感じさせない、事務的な口調でネイサンは通告した。
なにを答えていいのか分からなくて、マージュは口を開いたまま唖然とネイサンを見つめ続けた。
なんと答えるべきなのだろう……「わかりました、ミスター・ウェンストン」? 「まぁ、楽しみだわ」?
もちろん、ネイサンの瞳をのぞき込んでも、答えはいっさい映っていない。マージュはまごつき、いたたまれなくなって下を向いた。
「あなたは……それでいいのですか?」
無意識にそんな言葉が口から漏れて、マージュは驚き、狼狽した。
こんなことを言うつもりはなかったのだ……。ネイサンはきっとマージュとの会話など望んでいない。決定事項を伝えたら、マージュがおとなしくそれに従うことを期待し、仕事の山が待っている書斎へ一刻も早く戻ろうとしか考えていないはずだ。
案の定、ネイサンはしばらくなにも答えなかった。
マージュは顔を上げることができなかったから、今のネイサンがどんな顔をしているのか、確認することはできない。──ああ、心臓よ、そんなに速く鳴らないで。彼に聞こえてしまう。
しっかりと油を染みこませた黒い革靴が、苛立たしげに一歩前へ進むのが見えて、マージュはますます背筋をこわばらせた。すると、ネイサンはすぐに足を止めた。
「わたしは、この結婚を君に強制した覚えはない」
震え上がってしまいそうな、ざらついた低い声だった。
「そんなふうに、まるでわたしが君をフレドリックから奪い、無理やり結婚しようとしているような顔はやめてくれ」