氷と花
書斎にて 〜 "This is for your safety"
朝食を終えた後……いったん自室に戻って髪や服を整え、また一階に下りてきたマージュは、ネイサンの書斎の扉の前に立ちながら、緊張でめまいを起こしそうになっていた。
書斎の扉は落ち着いたこげ茶のマホガニーで、真鍮の丸い取っ手が付いている。飾りの類はいっさいないのに、重厚な造りのその扉は、まさにネイサンの心の壁を体現しているような気がした。
なんどか躊躇して手を引っ込めた後、マージュはごくりと唾を呑み、ついに勢いにまかせて扉を叩いた。
「入りなさい」
まるで、この瞬間を待っていたかのように、ネイサンの低い声がすぐにマージュを呼んだ。もしコルセットを付けていたら、マージュは卒倒していたかもしれない。
しかし、なんとか勇気を振りしぼったマージュは、ゆっくりと扉を開いた。
東向きの大きな窓から降りそそぐ朝日を背に、ネイサン・ウェンストンは立っていた。
彼の前には扉と同色のマホガニーの執務机があり、銀やクリスタルの上品な筆置き、手紙を開けるナイフ、インク瓶などがそろっている。マージュから見て右手の壁一面に本棚が立て付けられていて、上段の本を取るためのはしごがかけられていた。
ただ、ネイサンの長身を持ってすれば、はしごは必要なさそうな気がしたけれど。
書斎の扉は落ち着いたこげ茶のマホガニーで、真鍮の丸い取っ手が付いている。飾りの類はいっさいないのに、重厚な造りのその扉は、まさにネイサンの心の壁を体現しているような気がした。
なんどか躊躇して手を引っ込めた後、マージュはごくりと唾を呑み、ついに勢いにまかせて扉を叩いた。
「入りなさい」
まるで、この瞬間を待っていたかのように、ネイサンの低い声がすぐにマージュを呼んだ。もしコルセットを付けていたら、マージュは卒倒していたかもしれない。
しかし、なんとか勇気を振りしぼったマージュは、ゆっくりと扉を開いた。
東向きの大きな窓から降りそそぐ朝日を背に、ネイサン・ウェンストンは立っていた。
彼の前には扉と同色のマホガニーの執務机があり、銀やクリスタルの上品な筆置き、手紙を開けるナイフ、インク瓶などがそろっている。マージュから見て右手の壁一面に本棚が立て付けられていて、上段の本を取るためのはしごがかけられていた。
ただ、ネイサンの長身を持ってすれば、はしごは必要なさそうな気がしたけれど。