氷と花

「これを、日付順に整理して欲しい。新しい日付を上に」

 ネイサンは、束になった数十枚の薄い紙を持ち上げて、机越しにマージュへ差し出した。反射的にそれを受け取ろうと手を伸ばすと、ふたりの指が触れ合う。
 触れた指先にしびれが走り、マージュは息を呑みながら顔を上げた。

 ネイサンはまず、じっとふたりの手を見つめ、それからゆっくりと顔を上げてマージュと目を合わせた。
 吸い込まれてしまいそうな深い灰色の瞳が、マージュを射抜くように見つめている……。暗くて冷たいとばかり思っていたネイサンの瞳が、その時だけはひどく情熱的に感じられた。
 油断をしたら、燃え尽くされてしまいそうなほどの、灼熱。

「は、はい」
 マージュはなんとか返事をした。「では、そこの長椅子を使わせていただいて……いいでしょうか? それともどこか別の場所で……」
「どこでも構わない、が、この書斎にとどまっていてくれると助かる」

 ネイサンは長椅子を視線で示した。ネイサンの執務机からは、目と鼻の先だ。
「他にも頼みたい仕事があるのでね」
 ついでのようにそう言い加えると、ネイサンは短く乾いた咳払いをひとつして、椅子に腰掛けた。そして執務机の上に置かれていた数枚の手紙を、ナイフで器用に開きはじめる。パリッと蝋がはがれる音がして、手紙を広げたネイサンは、ナイフを横にどけて内容を読みはじめた。

< 27 / 85 >

この作品をシェア

pagetop