氷と花
 頭の中が真っ白になって、マージュはなにも言えないまま硬直していた。うっすらと口を開いたものの、言葉はひとつも出てこない。
 眉間にしわを寄せたネイサンは、荒々しくマージュを上に向かせると、貪るような口づけで婚約者の唇をふさいだ。
 マージュの口から酸素が奪われ、代わりにほとばしるような熱が唇の表面を通してマージュの中に吹き込まれる。文字どおり息を吐く間もないほどの激しさと性急さであったにもかかわらず、マージュの体はそれを拒否するどころか、甘いうずきに貫かれて動けなくなった。
「あ……」
 わずかに喉から漏れた声も、ネイサンの口づけに貪欲に吸い取られる。
 ネイサンは片手でマージュの首元を(とら)えたままで、もう片方の手を胸の前まで滑らせていった。たった今朝、思わず見とれていたあの筋立った手が、マージュの上着の前を乱暴にはだけさせる。
 現れたのは薄い寝間着だけで、この身の純潔を証明したい人間の適切な格好とは、とても言い難かった。

 案の定……一瞬だけ口づけを離したネイサンは、マージュをじっと見下ろすと、寝間着姿に気づいて鋭く息を吸った。いつのまにか下半身をたぐり寄せられていて、ネイサンのたくましい肉体が布越しに触れている。
 お腹の辺りに、痛いほど硬くそそり立ったなにかが押しつけられていた。
 硬く、熱く、強く存在を主張する、無視できない……なにか。

< 38 / 85 >

この作品をシェア

pagetop