氷と花
ネイサンはベッドに座っていて、マージュは部屋の中央に立ったままだった。
それが妙に不自然に感じて、マージュはためらいながらもネイサンの側までそろそろと進んだ。そして、彼が拒否しないのを確認すると、すぐ隣に腰を下ろした。マージュの体重でベッドがすこし沈んでも、ネイサンの鋼のような体はびくともしない。
「じゃあ……嫌われているわけではないんですね?」
マージュがのぞき込むように見上げると、ネイサンは首をかしげてマージュを見下ろした。
「まさか」
それがネイサンの短い、しかし確かな、返事だった。
急に、胸の奥に温かい風が吹き抜けて、幸せに似た気持ちに足元をすくわれたような気がした。ネイサンはマージュを嫌っていない。マージュとの結婚を迷惑な重荷だと思っているわけではない。それを聞いただけで、マージュの心の闇は霧となって薄れていく。
マージュは久しぶりに心から微笑んでいた。
「でも、あなたならそんなに待てますか? ひとりの女性を十年も?」
からかうつもりで言っただけなのに、ネイサンはにこりともしないどころか、さらに真剣な顔になってマージュを見つめてきた。
間近で見るネイサン・ウェンストンは美しかった。
その熱い視線に、マージュの鼓動は何倍もの速さで鳴った。そしてネイサンはマージュにそっと微笑み返した。
「わたしは百年でも君を待つよ、マージュ」
マージュ。
マージュ。
はじめてネイサンの口から聞いたマージュの愛称は、信じられないほど優しくて愛情に溢れた響きをしていた。もしかしたら、マージュがそう思いたかっただけなのかもしれない。本当はそこまでの愛はないのかもしれない。
でも。
それでも。
「ミスター・ウェンストン……」
マージュがつぶやくと、ネイサンの人差し指がマージュの唇に近づいて、触れるか触れないかの距離でぴたりと止まる。
「『ネイサン』だ」
マージュは息をつまらせ、瞳を揺らした。
「ネイサン……」
それが妙に不自然に感じて、マージュはためらいながらもネイサンの側までそろそろと進んだ。そして、彼が拒否しないのを確認すると、すぐ隣に腰を下ろした。マージュの体重でベッドがすこし沈んでも、ネイサンの鋼のような体はびくともしない。
「じゃあ……嫌われているわけではないんですね?」
マージュがのぞき込むように見上げると、ネイサンは首をかしげてマージュを見下ろした。
「まさか」
それがネイサンの短い、しかし確かな、返事だった。
急に、胸の奥に温かい風が吹き抜けて、幸せに似た気持ちに足元をすくわれたような気がした。ネイサンはマージュを嫌っていない。マージュとの結婚を迷惑な重荷だと思っているわけではない。それを聞いただけで、マージュの心の闇は霧となって薄れていく。
マージュは久しぶりに心から微笑んでいた。
「でも、あなたならそんなに待てますか? ひとりの女性を十年も?」
からかうつもりで言っただけなのに、ネイサンはにこりともしないどころか、さらに真剣な顔になってマージュを見つめてきた。
間近で見るネイサン・ウェンストンは美しかった。
その熱い視線に、マージュの鼓動は何倍もの速さで鳴った。そしてネイサンはマージュにそっと微笑み返した。
「わたしは百年でも君を待つよ、マージュ」
マージュ。
マージュ。
はじめてネイサンの口から聞いたマージュの愛称は、信じられないほど優しくて愛情に溢れた響きをしていた。もしかしたら、マージュがそう思いたかっただけなのかもしれない。本当はそこまでの愛はないのかもしれない。
でも。
それでも。
「ミスター・ウェンストン……」
マージュがつぶやくと、ネイサンの人差し指がマージュの唇に近づいて、触れるか触れないかの距離でぴたりと止まる。
「『ネイサン』だ」
マージュは息をつまらせ、瞳を揺らした。
「ネイサン……」