氷と花
日曜日の散歩 〜 "Is this a way of torture?"
もうもうと煙を上げる煙突も、我先にと急ぐ荷馬車もほとんどないウィングレーンの街を横切るのは新鮮だった。いつもの刺々しさは影をひそめ、閉め切った工場や店が並ぶ姿は、どこか物悲しいほどの落ち着きを感じさせる。
マージュは軽快な足取りで石で舗装された道路を歩いた。
隣にはネイサンが、ふたりの間にいささか必要以上の距離を保ちながら同伴している。彼は、飾りはないが上質な仕立ての黒い外套を着込み、いかにもネイサン・ウィンストンといった感じで、まっすぐ背筋を伸ばして歩いていた。
帽子をかぶった彼はさらに長身に見えて、マージュはその迫力に何度もため息をこぼしそうになった。
ネイサン・ウェンストンの隣を歩いていると、マージュはたとえ悪魔の大群が襲ってきても彼が守ってくれるのではないかと思えるほどの、心地よい安心感に包まれる。ついこの前まで、ネイサン本人のことを悪魔のようだと考えていた自分が、恥ずかしくなるほどだった。
ネイサンとの散歩は、ふわふわと雲の上を歩くようなフレドリックとの散歩とは違う。明確な目的地と目標を持って邁進する、なにかへの挑戦のようでさえあった。
わき見はしない。
つねにマージュの足元の安全に厳しく目を光らせ、ゆるみなく進んでいく。まさにネイサンそのひとといった感じの歩き方で、マージュは思わずくすくすと笑い声を漏らしていた。
急に一歩、遅れをとったマージュを素早く振り返ったネイサンは、眉をひそめてみせた。
「どうした?」
「いえ……そんなに難しい顔をして散歩をするひとをはじめて見たと思って。もっと景色を見て、鳥の歌声を聴いて、朝日の暖かさを肌に感じていいんですよ?」
マージュに言われて、ネイサンは歩きながら空に顔を上げた。
彼の顔にはちっともやる気が浮かんでいない。
マージュは軽快な足取りで石で舗装された道路を歩いた。
隣にはネイサンが、ふたりの間にいささか必要以上の距離を保ちながら同伴している。彼は、飾りはないが上質な仕立ての黒い外套を着込み、いかにもネイサン・ウィンストンといった感じで、まっすぐ背筋を伸ばして歩いていた。
帽子をかぶった彼はさらに長身に見えて、マージュはその迫力に何度もため息をこぼしそうになった。
ネイサン・ウェンストンの隣を歩いていると、マージュはたとえ悪魔の大群が襲ってきても彼が守ってくれるのではないかと思えるほどの、心地よい安心感に包まれる。ついこの前まで、ネイサン本人のことを悪魔のようだと考えていた自分が、恥ずかしくなるほどだった。
ネイサンとの散歩は、ふわふわと雲の上を歩くようなフレドリックとの散歩とは違う。明確な目的地と目標を持って邁進する、なにかへの挑戦のようでさえあった。
わき見はしない。
つねにマージュの足元の安全に厳しく目を光らせ、ゆるみなく進んでいく。まさにネイサンそのひとといった感じの歩き方で、マージュは思わずくすくすと笑い声を漏らしていた。
急に一歩、遅れをとったマージュを素早く振り返ったネイサンは、眉をひそめてみせた。
「どうした?」
「いえ……そんなに難しい顔をして散歩をするひとをはじめて見たと思って。もっと景色を見て、鳥の歌声を聴いて、朝日の暖かさを肌に感じていいんですよ?」
マージュに言われて、ネイサンは歩きながら空に顔を上げた。
彼の顔にはちっともやる気が浮かんでいない。