氷と花

You are mine

 月曜日の朝が来たというのに、ネイサンはいつものように朝一番に書斎へ向かう気にはなれなかった。

 まぶたに降り注ぐ朝日を感じて、ゆっくりと目を開いていく。カーテンの隙間から漏れる東日は白く輝きながら部屋に差し込み、夜の間に冷え込んだ空気をだんだんと温めていた。
 そして、シーツに包まれて横たわる、マージュのなめらかな肌を照らしていた。

 ネイサンは思わず微笑み、まだ眠ったまま目を覚ます気配のないマージュの裸の肩に唇を寄せた。
 マージュの赤みがかった金髪は、太陽の光を浴びてきらめいている。ゆるやかな曲線を描いた長い髪は、普段は上品にうなじの上にまとめられていることが多かったが、今朝は枕の上に波のように広がっていた。

 マージュ。
 昨日のマージュは素晴らしかった。

 もちろん彼女はいつだって素晴らしい女性ではあるが……ネイサンにすべてを捧げてくれた昨日のマージュは、情熱的で愛情に溢れ、しかし無垢で無邪気で、まさに男の夢そのものだった。

 いや、夢などよりはるかに上質の、地上の天国。

 ネイサンは上半身を上げたが、ベッドがきしんでもマージュは唇をかすかに動かしただけで、深い眠りから覚めることはなかった。思わず、にやりと口の端をあげて、シーツの上から彼女の体の線をなでる。

 ──わたしのものだ。

 胸の奥から湧き上がってくる灼熱の興奮を、ネイサンは止められなかった。
 これが独占欲というものだろうか? または、保護欲?
 多分、どちらでもある。
 マージュはネイサンの十二歳年下で、心に傷を負ったばかりで、この世のなによりも美しい。保護し、独占し、愛し、抱きつくしたいと思わないほうが男としておかしいのだ。

 ネイサンはそう自分を納得させていたが、あふれ出るこの想いが、いささか常軌をいつしているのも心のどこかで理解していた。

 ネイサンは過保護な夫になるだろう。
 毎晩のように妻を抱き、朝から晩まで彼女の安否を心配し、誕生日や記念日には新しい宝石や衣類を雨あられのように与える……絵に描いたような愛妻家に。

 いい年をした男としては、そんな未来予想図に顔をしかめてもよさそうなのに、ネイサンは微笑むことしかできなかった。

 ──わたしのものだ。

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