氷と花
 シーツ越しになでるだけでもじゅうぶん、華奢ながら女性らしい丸みを持った肉体を感じることができて、手にしびれが走る。しばらくはそれに満足していたが、そろそろ起きて仕事へ行かなければいけないことを考えると、時間を無駄にはしたくなかった。

 ごくりと唾を呑みながら、マージュを覆うシーツの一部をはがす。

 すぐに現れたふっくらとした胸と、その頂を飾る桃色の突起に、ネイサンは恍惚として魅入った。そしてもちろん、そこへ唇を寄せて吸い付きたくなる原始なる欲求を、抑えることはできなかった。

「あ……ん……っ」
 甘い声を上げながら、マージュがまぶたを震わせる。はしばみ色の大きな瞳は驚きに見開き、早朝から紳士らしからぬ行為に走るネイサンの存在に気づくと、短い悲鳴を上げた。

「な……なにをして、いるの? あぅ!」

 食後の甘味をなめ上げるように舌で乳首を転がすと、マージュの質問は嬌声へと変わった。

 彼女のほおは見るまに紅潮し、呼吸は悩ましげに荒くなっていく。当然、ネイサンの息も荒くなった。本能的に胸を隠そうとするマージュの腕を両脇に押し止め、もう片方の胸を舌で味わった。

 マージュは全身を小刻みに震わせ、快感の波へさらわれながら、すすり泣く。

 ──わたしのものだ。

 背を弓なりに反らしたマージュは、どんな高名な芸術家の彫刻よりも美しく、生々しかった。
 彼女の背中に腕を回し、上半身を抱き寄せながら、ゆっくりと唇を下へ()わせていく。繊細な腹部の肌を滑り下り、そのまま女性のもっとも神秘的な場所までたどり着く。
 すると、マージュはびくりと大きく痙攣するように震えた。

「あ……そこ、は……」
 おびえるような、不安げな声。ネイサンは我に返って顔を上げた。
「痛むかい?」

 当たり前だ。昨日のマージュは初めてだったにも関わらず、数回ネイサンを受け入れてくれた。もちろん出血もあり、疼痛が残っていて当然だった。

「当然だな。すまなかった。今朝はもうこれ以上はしないから、怖がらないでくれ」

 すぐにそう伝えると、マージュは安心したように体の緊張をほどいたが、まだ当惑しているような表情を浮かべていた。ネイサンは眉間にしわを寄せる。

「どうした?」
「でも、いいんですか……?」

 マージュは無垢に瞳をまたたきながら聞いてくる。実際、全裸でネイサンの下に組み敷かれたマージュの肉体は、無垢とはほど遠い色気に溢れていたが……論点はそこではない。ネイサンが疑問に片眉を吊り上げると、マージュはまごつきながら答えた。

「その……あなたの大きな部分が……とても……固くなっているから……」

 ネイサンは言葉を失い、己の下腹部に視線を移した。
 ああ、確かに、朝から釘を打てそうなくらい固くなっている。ついに最高の居場所を見つけた『それ』は、とにかくマージュの中に戻りたくてはち切れんばかりに膨張していた。

 まるで、はじめて女性を知った十代の少年のように。
 しかし、ネイサンは間違いなくれっきとした大人の男だった。ひと回りもマージュの年上で、冷静沈着で、それなりに経験もあり、己を制御できる紳士であるはずだった。
 くそ、そうでなければならないのだ!

「わたしくらいの年の男なら、なんとかしようと思えばなんとかできるものだ。気にしなくていい」

 自分で自分の言っていることに信憑性を感じられないのだから、マージュもまたしかり。疑問を抱えた瞳が、じっとネイサンを見つめている。
 ネイサンの……顔よりもっと下の、男自身を。

「とても……大きいんですね」本当に感銘を受けているようなマージュの声だった。「いつも、こんなふうに……その、立派でいられるものなのですか?」

 ネイサンは野獣のようなくぐもったうなり声を上げた。
 いますぐマージュの内部に己をねじり込みたい情熱を我慢するのに、額に脂汗がにじむほど歯を食いしばる必要があった。なんとか煩悩を一時的に横へ退け、ベッドの上で体を起こす。
 シーツを胸元にあてがうと、マージュも一緒に上半身を起こした。

「君のために、」
 と、ネイサンは静かにささやいた。
「いつでもこうなれるよう努力しよう。そう難しいことでもなさそうだからね」

 すでに紅潮していたほおをさらに赤らめるマージュに、ネイサンは軽い口づけをした。マージュは照れながら微笑み、ネイサンも心から微笑み返した。
 これほど満たされた思いに触れる朝は、はじめてだった。

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