狂刀のヘンバー
ヴァレンタインはじっと俺を見た。
「お前は? お前は、なんのために人を殺した」
俺は静かに答える。
「理由なんてない」
ヴァレンタインは厳しく言い返した。
「我々は暗躍の子供たちだ。主の利益のために人を殺している。そのために生きている。生かされている。お前は暗躍の子供たちをなんだと思っているんだ!」
「俺たちも、貴族も、ただの人間だよ」
ヴァレンタインは呆れた顔をした。
「ユラン家の次はお前か」
俺はコハの言葉を思い出した。
「コハは、ここを第二の家と言った。幸せそうにな。」
俺は窓の近くに寄り、曇り空を仰ぐ。
「ヘンバー、お前を始末する。最期に何か言いたいことは?」
俺は、自分が殺めたアリアの死体を見た。
「お似合い……だったんだ」
一瞬だけ映る、二人の微睡んだ顔。
「それが最期の言葉か?」
「俺は愚か者か?」
「ああ、筋金入りのな」
その瞬間、俺は窓の縁に足をかける。
「お前!」
俺は顔を上げて高らかに言った。
「ならば、俺は最後まで愚か者になろうじゃないか!」
俺は窓から飛び降り、見事に着地する。
その時俺は、自分の翼が背中から外れた音を感じた。
***
そして、今に至るわけだ。
自分が生まれつき持っている翼を自分でズタズタに引き裂く。
翼などいらないという表明の証。
我々は何者にも定義されない者。
まさにそれは孤高の存在。
人という存在なんだ。
あれからさらに月日が流れていく。
俺は殺し屋から足を洗い、彼岸花が辺り一面に咲く山奥の小屋でひっそりと暮らしている。
血のように赤い彼岸花を恐れてか、誰一人として小屋に近づくことはなかった。
これが俺の、狂刀のヘンバーの物語。
完