来世はあなたと結ばれませんように

 夢か幻か。もうそんなのどちらでもいい。
 いつもの天井。
 いつものベッド。
 いつもの匂い。
 現実に引き戻されてしまったのだ。

 右手を見ると、夫のエドガーがベッドの傍らで眠っていた。夜中まで看病してくれたのだろう。彼の片方の手には濡れたハンカチが握りしめられていた。

 結婚して約十年。二人ともそろそろ三十になる年だが、エドガーの老いは酷くなるばかりだ。額近くの髪は白髪が混じり、目元の皺が深く刻まれて増えていっている。食べる時間もないのか、彼の腕を見ると以前よりも痩せ細っていた。

 彼がこんな姿になったのは全て私のせい。
 私が不治の病にかからなければ、夫が多忙を極めることはなかっただろう。

 エドガー・セオドルス公爵。
 セオドルス家は代々サイミーア国の宮廷貴族として仕えており、エドガーはこの国の王であるアンドリュー一世陛下と政治を動かしている。

 サイミーア国は現在、隣国のアルジミアン国と緊張状態にあり毎日会議に参加しなければならなかった。

 そんな中でも夫は、夜通し王宮で仕事をしたことは一度もない。私の看病のため早くに屋敷に帰り、私が眠りにつくと自室で策を夜な夜な考えている。

 眠るのが苦手な夫だが、あまりにも寝なさすぎる。こうしていつ眠っているのかもわからない忙しい日々を毎日送っているのだ。

 彼は自分の体のことなど後回しで、屋敷に戻れば私の看病ばかり。もっと自分の体を労って欲しいと毎回言っているがいつも笑って誤魔化されてしまう。

 ここで少しでも長く寝ていて欲しかったが、どうしても咳が出てしまう。
 案の定、私の咳でエドガーが目を覚ました。
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