来世はあなたと結ばれませんように

 咳を我慢し過ぎたせいか、激しくむせてしまった。息ができなくて顔が真っ青になり、口元を押さえていたハンカチには血が混じる。

 もう自分は長くはもたない。
 私はもう少しで終わる。
 これで夫の荷が降りるだろう。
 それでいい。
 それでいいのだ。

 持ってきた食事はスープだけ飲み、薬は飲まずにマットとベッド台の隙間に入れる。
 不治の病を治す薬などない。ただの気休めだ。

 そしてベッドに横になって目を閉じ、昔のことを思い出した。

 エドガーとの出会いは、お見合いから始まった。
 当時は好きでもない相手と結婚なんてしたくないと嘆き、エドガーに実際会っても冷たくあしらっていた。
 二人でしたくもない散歩をして無言が続く中、私のお気に入りの帽子が風に飛ばされて湖に落ちてしまった。その時彼は躊躇わずに湖に入り、帽子をとってきてくれたのだ。その時の彼の笑顔は今でも忘れられない。

 それから私は彼のことが次第に好きになった。とても面白くて明るくて、そして何より優しい。笑った時の目元が特に好きで、もっと笑って欲しいと心からそう思い、それから私は婚約を受けた。その時の彼は子供のように喜んでいた。

『初めて会った時から素敵だと思っていたんだ。一目惚れしてしまったんだよマリー! 良かった! 本当に今日は最高の日だ!』

 だが不幸なことに結婚してすぐに私が病にかかってしまった。病気のせいで子供が授かれないと医者に言われた時でも、彼は私に気を遣ってくれた。

『それなら、私たちはいつまでも恋人同士だ。二人で気楽に旅にも行けるじゃないか。君となら私はどこでも一緒に行きたいな。それが天国でも、地獄でもね。来世でも君と結ばれたいんだ、マリー。来世でもきっと、君を見つけてみせるよ』


 深い眠りにつきそうになっていた時、侍女のアメルダが勢いよく部屋へやってきた。

「奥様! 大変です! 旦那様が、旦那様が!」


 エドガー?
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