不器用な灯火


「ただいまぁ。」

仕事から帰宅し、家のドアを開けると、家中には揚げ物の良い香りが広がっていた。

わたしは疲れた足をパンプスから解放させると、リビングへのドアを開けた。
すると、そこにはキッチンに立つわたしの父の姿があった。

「おかえり、千紗!今日は父さん特製の唐揚げだぞぉ!」
「わぁー、美味しそう!着替えたらわたしも手伝うね!」
「いいから、千紗は座ってなさい。今日も残業で疲れただろ?」
「大丈夫!」

わたしは、父子家庭で育った。

母は、わたしが9歳の時に病死しており、それからはお父さんが男手一つでわたしをここまで育ててくれたのだ。
だから、ずっとこの家でお父さんと二人で生活してきた。

料理は、いつも先に帰って来た方が作るのだが、わたしは残業が多く、大体はお父さんが作ってくれている。

お父さんは心配性で過保護と言ってもいいくらいわたしに優しかった。

お父さんが揚げた唐揚げをお皿に盛り付け、テーブルに移す。
あとは、ご飯にお味噌汁。

「いただきます!」

今日も二人きりの夕食だ。

わたしはお父さんの愛情をたくさん受けて育った。
母が居なくなり、寂しいと思うことは正直あったが、それ以上にお父さんは一生懸命に母の分までわたしに愛情をくれた。

だから「寂しい」と口に出したことはない。

わたしはこれからお父さんに親孝行をしていかなくてはいけない。
そう思っていた。

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