不器用な灯火

わたしはシャワーを浴びると、身体の隅々まで必要以上に洗った。
洗っても洗っても、汚い。

そしてわたしは、声を殺しながら泣いた。

お風呂から上がると、わたしはそのまま2階に上がり、自分の部屋へ向かおうとした。

すると、またお父さんがリビングから「千紗?」と声を掛けてきた。

「ご飯は?今日は父さん特製の唐揚げだぞぉ!」

お父さんの言葉にわたしは「今お腹空いてないんだ、ごめんね。」と言うと、それ以上何も言わず、2階に上がり、自分の部屋にこもった。

まさか、これがお父さんとの最後の会話になるなんて、思いもせずに――――


次の日、わたしはいつもより早めに出勤した。
いつもならお父さんと同じ時間に家を出るのだが、お父さんと顔を合わせるのが気まずく、少し早めに家を出たのだ。

昨日は一睡も出来なかった。

思い出したくもないのに、思い出してしまい、身体中に鳥肌が立つ。

すると、後ろから「千紗。」とわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
名前を呼ばれただけで、なぜかドキッとしてしまう。

振り向くと、そこには久登の姿があった。

「久登、おはよう。」
「おはよう。千紗、大丈夫か?」
「えっ?」

久登はわたしの顔を見るなり「疲れたような顔してるから。」と言った。

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