不器用な灯火

そして、今日の業務も一通りこなし、退勤時間が迫る17時半頃のことだった。

急に会社のドア勢い良く開いたのだ。
開いたドアの先には、息を切らした八百屋のおばあちゃん、キクばあちゃんが血相を変えて立っていた。

「千紗ちゃん!大変だよ!」
そう言いながら、疲れ果てその場に座り込むキクばあちゃん。

わたしはキクばあちゃんに駆け寄った。

「どうしたの?!」
「た、大変だ!火事だ!千紗ちゃんの家が燃えてるんだよ!!!」
「えっ?!」

それを聞き、真っ先に浮かんだのはお父さんの顔だった。

気付けばわたしは走り出していた。

この時間なら、家にはお父さんが居るはず。
お父さん、お父さん、お父さん、、、

家に近付くにつれ、焦げ臭いニオイがし、黒煙と真っ赤な炎が空に向かって上がって居るのが見えた。

わたしの家の周りには、野次馬がたくさんいた。

「あ、千紗ちゃん!」

わたしの姿を見つけたお隣さんの菅野さんが駆け寄ってきた。
菅野さんはお父さんと職場も同じだった。

「菅野さん!お父さんは?!」
「今日も定時に帰ってるから、多分、中に、、、。」

そう言って、燃え盛る炎を見上げる菅野さん。

「お父さーん!!!」

わたしは燃える家の中へ入ろうとした。
しかし、菅野さんに「ダメだよ、千紗ちゃん!」と止められてしまった。
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