不器用な灯火
すると、そこへわたしを追いかけて久登がやって来た。
「千紗!おじさんは?!」
「お父さん、まだ中に居るみたいなの!助けないと!!!」
そう言って、わたしが助けに行こうとするが、久登にも止められてしまった。
「お父さん!!!お父さーん!!!お父さーん!!!」
何度叫んでもお父さんの返事は聞こえない。
そのあとすぐに消防車が到着して消火活動を行ってくれたが、家は全焼。
台所があったあたりからは、真っ黒なお父さんらしき遺体が発見されたのだった。
わたしは久登に抱き締められながら泣いた。
昨日、ちゃんとお父さんの顔を見れば良かった。
お父さんの特製唐揚げを食べれば良かった。
朝はちゃんと「おはよう」って言えば良かった。
あれが最後の会話になるなんて、思いもしなかった。
まだ親孝行出来てないのに、、、
そして、火事の原因は放火だったらしい。
犯人を見たという人は現れず、警察の人にはお父さんが恨みをかうような人だったかどうかを事情聴取された。
しかし、お父さんはそんな恨みをかうような人ではない。
何でこんなことに、、、
わたしには何も無くなった。
大切な唯一の家族、わたしを男手一つで育ててくれた大好きなお父さんも、帰る家も無くなってしまったのだ。