不器用な灯火

わたしは事情聴取が終わると、久登に付き添ってもらい、警察署を出ようとした。

すると、「あのぉ!」と一人の警察官に引き止められ、わたしはその声に立ち止まり、振り返った。

「お帰りのところ引き止めてしまってすみません。実は、あとから消防の隊員から預かっていた物がありまして。」

警察官はそう言うと、小さな紙袋を差し出した。

「お父様が握り締めていたそうです。一部は、焼け焦げてしまっているんですが、これは渡さなくてはいけない物だと思いまして。」

わたしはそう言う警察官が差し出した小さな紙袋を受け取り、「ありがとうございます。」と言った。

警察官は「それでは、気をつけてお帰りください。」と一礼してから敬礼すると、戻って行った。

「何だろう。」
わたしはそう呟き、紙袋を開いて中身を取り出した。

中に入っていたのは、四つ折りになった白い紙だった。
わたしはそれを開いてみた。

すると、そこには汚いお父さんの字でこう書かれていたのだ。

"父さんの特製からあげ食べて、元気出せ!"

わたしは涙が溢れてきて、しゃがみ込み声に出して泣いてしまった。

きっとお父さんは、昨日のわたしの様子から今日も唐揚げを作ってくれて、話したがらないわたしに置き手紙をしようとしてくれていたんだ。
だから、台所付近で遺体が見つかったんだ。

そして、左上は少し焼け焦げていたが、"紗へ"という字が書いてあり、"千紗へ"と書こうとしていたんだなぁと思った。

お父さん、昨日は冷たく接してごめんなさい、、、

わたしはしゃがみ込んだまま、お父さんからの最後の手紙を抱き締め泣き続けた。
その背中を久登は何も言わずに擦り続けてくれていたのだった。

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