不器用な灯火

そして、久しぶりの業務が終わり退勤時間になった。

すると、またこのタイミングで絵里奈社長が久登に「久登〜、今日もちょっと残業出来ない?」と猫撫で声でお願いしていた。

久登は「またですか?」と言いつつ、「千紗。」とわたしを呼ぶと、わたしに向かって何かを投げた。
それを受け取ると、それは久登の家の鍵だった。

「先に帰っててくれ。すぐ終わらせて帰るから。」
「うん、分かった。」

わたしは久登の家の鍵をバッグに入れると、タイムカードを切り、退社した。

外に出ると、会社の目の前に白い車が停まっているのが見えた。
わたしはその運転席に座っている人を見て、身体がゾクッとした。

その人は廃倉庫にいた、あのときの3人の男の内の1人だったからだ。

わたしは気付かれないように走って帰ろうとした。
しかし、パンプスの音でバレてしまい、助手席と後部座席から男が2人降りてきて、こちらに向かってきた。

わたしはあのときの恐怖を思い出し、足がガクガク震えて逃げることが出来なかった。

「巨乳ちゃん、迎えに来たよ。今日もよろしくね。」

ニヤリと笑い、男はそう言うとわたしの腕を掴んだ。

わたしが抵抗しようとすると、わたしの腕を掴んだ男がわたしの耳元でこう囁いた。

「大事な幼馴染がいるんだろ?そいつがどうなってもいいのか?」

その言葉を聞き、わたしは奴らに従うしかなかった。

< 18 / 31 >

この作品をシェア

pagetop