不器用な灯火

次の日の朝、わたしとお父さんは同じ時間に家を出た。

「いってらっしゃい!」
「いってきます!」

お互いにそう言い合い、わたしとお父さんはそれぞれの職場へ出勤する。

わたしが歩いていると、目の前に見覚えのあるスーツを着た後ろ姿が見えてきた。
わたしはその後ろ姿に駆け寄ると「おはよう、久登。」と声を掛けた。

わたしの呼び掛けに振り向いて、「あぁ、千紗。おはよう。」と無愛想にそう言う彼は、幼馴染の戸倉久登。

久登はいつもクールで、感情をあまり表に出さないタイプだ。
だから冷たい人間に思われがちだが、本当は優しい心を持っていることをわたしは知っている。

わたしは、小さい頃からずっとそんな久登に恋心を抱いていた。

そして、わたしたちは同じ小さな会社で働いている為、同じ職場を目指して歩いて行った。

「おはようございます。」

社内に入ると、何やら上司たちが急かせかと落ち着きがなく、そして、そこにはこの田舎町には似つかわしくない容姿の如何にもお嬢様育ちのような女性が居た。

この会社の部長である住田部長は、わたしたちに気付くと「あ!戸倉くん!新星さん!ちょっと話があるから来なさい!」と慌てた様子で手招きした。

わたしたちは顔を見合わせると、住田部長に言われた通り、住田部長のところまで近寄って行った。

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