不器用な灯火


それから、あっという間に退職当日になった。

わたしは自分のデスク周りを片付け、住田課長に引き継ぎをした。

「社長とは短い間でしたが、お世話になりました。」
「短い間だったけど、ご苦労さま!久登は、わたしに任せて?」

絵里奈社長は、嬉しそうにそう言うと、わたしに向かって「バイバーイ!」と手を振った。

わたしは会社を出ると、4年勤めてきた5階建てビルを見上げた。

色々あったけど、それも今日でおさらば。
これで良かったんだ。

そう思っていると、会社のドアが開き、久登が出てきた。

「千紗、一緒に帰ろう。」

わたしを追いかけて来てくれたのか、久登とは少し慌て気味だった。

わたしは「うん。」と頷くと、久登と並んで久登の家までの道のりを歩いた。


次の日の朝、久登はいつも通り出勤。
わたしは父の四十九日を行うために、父が働いてた職場へと向かうところだ。

「今日はおじさんの四十九日に行けなくてごめんな。本当なら行きたかったんだけど、、、。」
「ううん、気にしないで。久登は、あの会社に必要な人間なんだから。それより、久登、今日までありがとね。ここに居候させてもらって。」
「いや、いいんだ。」
「あとで荷物取りに来るから、それまでは置かせてね。」

そんな会話をし、わたしは久登を見送ると、喪服に着替え、父の職場へ向かった。
四十九日法要は、父が働いていた職場の個室を借りて無事に執り行うことが出来た。

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