不器用な灯火

勤務時間になり、それぞれの業務に就く。
今まで部長の時にダラダラしていた住田課長は降格し、業務が変わったのと同時に増えた為、アタフタしていた。

社長から部長に降格した本間部長も同様。
今まで部下に押し付けてきた業務をやる羽目になり、頭を抱えていた。

そして、新社長の絵里奈社長はといえば、久登の横に椅子を持ってきて、ずっと話し掛け続けていた。

「うちのお祖母ちゃん、この辺では有名な地主なんだよ?知ってるでしょ?だから、わたしと仲良くしといた方がいいよ?」

絵里奈社長の話を迷惑そうに横目で見る久登は「社長、今勤務中ですよ?無駄話は避けてください。」と言った。

すると、絵里奈社長は「社長じゃなくて、絵里奈でいいよ!わたしも久登って呼ぶから!」と全く久登の話を無視して、話し続けていた。

呆れた表情を浮かべる久登は、席を立つと、書類の束を持ってわたしのところへやって来た。

「千紗。この資料の確認しといてもらえないか?社長が邪魔で仕事にならない。確認だけしてもらえれば、打ち込みは俺がやるから。」

久登はそう言うと、締め切り間近の資料を手渡してきた。

「うん、わかった。打ち込みまでわたしがやっておくから、久登は他の仕事片付けちゃいなよ。」
「悪いな、千紗も忙しいのに。」
「わたしは大丈夫だよ。それより、、、久登の方が大変そうじゃない?」

わたしがそう言うと、久登は苦笑いを浮かべ「悪いな、じゃあ宜しく。」と言い、自分のデスクに戻って行った。

しかし、そんなわたしたちのやり取りを絵里奈社長は、面白くなさそうな顔で見ていたのだった。

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