不器用な灯火

そろそろ勤務時間が終わろうとする時、突然絵里奈社長が「今日、わたしの歓迎会しない?」と言い出した。
上司たちはもちろん賛成していた。

すると、絵里奈社長は「久登も歓迎会来てくれるでしょ?」と久登の腕に絡みつき、そのあとで「あ、でも、新星さんはダメ。あなたは、そのまま帰宅していいから。」と、わたしに向かって不敵な笑みを浮かべて言った。

絵里奈社長の言葉に困惑している様子の上司たち。

わたしは分かっていた。
わたしだけは、呼ばれないことを。

「あ、はい。分かりました。それじゃあ、お先に失礼しますね。」
わたしがそう言い、帰る支度を始めると、久登も帰る支度を始めた。

「俺も歓迎会は遠慮しときます。社員を差別する社長を歓迎する気にはなれないんで。」

久登はそう言うと、わたしに向かって「帰るぞ。」と言い、タイムカードを切って会社から出て行った。
わたしも「お疲れ様でした。」と絵里奈社長と上司たちに一礼すると、タイムカードを切り、久登のあとを追って退勤した。

先に会社を出て、夕日が沈む薄暗い道を先に歩いて行く久登。

わたしは久登を追いかけ、追いつくと「行かなくて良かったの?」と言った。

すると、久登は「千紗だけ仲間外れにして、行けるわけないだろ。」と、少し怒ったような口調で言った。

嬉しかった。
わたしは照れながら小さく「ありがとう。」と言うと、久登の隣を歩き家路についたのだった。

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