不器用な灯火


それから、絵里奈社長の久登へのアピールは続いた。
何度もデートに誘ったり、久登の給料を上げてみたり、振り向かせようと必死だった。

わたしが作成した書類をあとから改ざんし、「新星さん、ミスしたのよ!」と騒いだときもあったが、久登も確認済みの書類だった為、「社長があとから書き換えたんじゃないですか?」と久登に言われ、バレたことに顔を真っ赤にしていた時もあった。

そんなある日の木曜日。
そろそろ退勤時間という時に絵里奈社長が「今日どうしても終わらせないといけない仕事があるから、手伝ってくれない?」と久登にお願いをしていた。

「今からですか?」
「残業代は、ちゃんと払うから!ね?お願い!」

絵里奈社長のお願いに仕方なく「分かりました。」と返事をする久登。

わたしは「わたしもお手伝い出来ることありますか?」と言ってみたが、「新星さんにはお願いしてないから。もう帰っていいわよ。」と、やっぱりな、という返事が返ってきた。

「では、お先に失礼します。お疲れ様でした。」

わたしはそう言い、絵里奈社長に一礼すると、久登に向けて「頑張って」とアイコンタクトを取った。

そして、タイムカードを切り、会社の外へ出る。

もう日も落ちて暗くなり、古い街灯たちでは少し頼りないくらいだった。

すると、いきなり後ろから口を塞がれ、腕を掴まれた。
驚き、抵抗しようとしたが、その前にわたしは気を失ってしまっていた。

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