【完結】皇帝陛下の軍師寵姫

21 違うんだ…

sideファウル

それから3日経ち、少し気持ち的にも落ち着いたとき、イグナード達の熱心な勧めで、地下牢のエティーナに会いに行く事にした。

地下牢はエドバ城の中とは思えぬほど、カビ臭くジメジメしていた。
こんな所に閉じ込めて可哀想と言えば可哀想である。
だけど、俺の心の中には、まだ黒い影が渦巻いていた。

その呪いのやうな黒い影を解けるのは、エティーナだけだったのだ。

「…エティーナ。」

俺は牢屋にうずくまる彼女に向かってそう声をかけた。

「皇帝陛下…」

「………」

言いたい事は山ほどあるのに、何を言って良いか、分からなかった。

「私はスパイではございません…!
この罪は冤罪にございます!!!」

エティーナはそう言った。

違う…
違うんだ、エティーナ…
そんな言葉が聞きたいんじゃないんだ。
ただ一言…

俺の事が好きだ、と、そう言ってくれたなら…
すぐにでもこの牢から出し、そなたを抱きしめられるのに…

「…どう冤罪だと証明する?」

俺の口からは違った言葉が出てくる。
そんなのは、どうだって良いのに…

「そ、そ、それは…
サイア様…!
サイア様に問いただせば、きっと…!」

サイアの奴に問いただす、だと!?
俺を馬鹿にしているのか!?

イライラするのを、俺は上手く抑える事が出来ない。

「サイアとは随分仲が良かったようだなぁ…?
2人で何をしておったのだ?」

「で、ですから!
この国の情報などは漏らしておりませんしっ…!」

だから、そんな事を聞いているんじゃない。
2人で何をしていたのか、それが重要なのだ。

「なるほど!
俺の後宮の姫でありながら、サイア王子ともちちくりあっていようとはな!
とんだ、淫乱姫では無いか!」

「は…?
ご、ご、誤解にございます!
サイア様とはそのような関係では!
ただ、お茶をしただけでございます!」

その言葉に俺の心は僅かに揺らいだ。

ほんとうなのか…?
サイアの奴といちゃついて無いのか?

じゃあ、俺の方が好きなのか???

しかし、それは俺の口からついに出る事はなかった…

「…牢から出たいか?」

「それはもちろん…」

「では、俺の後宮の姫に違い無いと証明せよ。」

「え…?
どのように…?」

「俺に口付け致せ。
それで、牢屋から出してやろう。」

俺は言い、鉄格子の近くに顔を寄せた。

すると…
薔薇の花のような香りがふわりとしたかと思うと、俺の唇に柔らかな彼女の唇が重なった。

「…そなたを釈放致す。」

我ながら情けない。
軽い口付けをしただけなのに、俺は牢屋の番人に言い、すぐに彼女を牢屋から出した。

「しかし、しばらくは外出許可証はやれぬ。
わかっておるだろうが…
後宮にて、大人しく過ごすがいい。」

俺はそう言って彼女の頭を軽く撫でた。

「いえ、私が悪いのですから仕方ありません。
陛下、ありがとうございました。」

そして、この事件は終わった。
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