【完結】皇帝陛下の軍師寵姫

35 どの噂?

sideファウル

その日執務室に篭って仕事していると、珍しくベルゼンがやって来た。
筋肉バカのベルゼンは、執務室や書斎などを極端に嫌っており、普段なら近づこうともしなかった。

「何用だ、ベルゼン?
お主が執務室に来るなど雨でも降るやもしれんな。」

と、軽く笑い飛ばしたものの、ベルゼンは真剣な表情である。

「陛下、あの噂をご存知無いのですか…?」

「は?
あの噂?
どの噂だ?」

この王都エドバには噂などその都度立っている。
火のない所にも煙は立つのだ。
いちいち、噂話など気にしていられない。

「エティーナ殿とミーシャ殿が勝負なさるそうですよ?」

エティーナはエティーナとして…
ミーシャ…?
はて、誰だったかな?

「シャルナーク国の第三王女で御座いましょう?
陛下の正妃候補としてダイヤモンドの後宮に入ったではありませんか!」

ベルゼンに少し強く言われて、俺はやっとその姫のことを思い出した。

「あぁ!
ミーシャか!

して、なぜ、ミーシャとエティーナが勝負するのだ???」

「鈍うございますね…
もちろん、皇帝陛下の寵愛をかけて、でございますよ!」

「はぁぁぁ!?」

俺は急激に目が覚めた。

「何もそんなに不思議なことではありますまい?
ミーシャ殿は王女としての気位の高いお方、エティーナ殿を受け入れられぬのも、納得がいきます。
それに…
エティーナ殿の性格からして、勝負から逃げる事はしないでしょう。」

ベルゼンは言った。

「しかし、一体どの様勝負をするのだ?」

「どうも、狩猟大会にて勝負を決するようですよ?」

「狩猟大会…か…」

確か記憶を辿ればミーシャは狩りの名手であった。
対してエティーナは…?
狩りが得意などと聞いたことがないぞ…!

俺は急に心配になってきた。

そして、夜、エティーナの元に向かった。

「あら、陛下。
今宵は何について語りますか?」

「そんな事より、そなたミーシャと勝負をするそうではないか!」

「え、えぇ…まぁ…」

エティーナは言葉を濁すようにそう言った。

「勝ち目はあるのか!?」

俺は言う。
俺自身が景品なのだから、他人事ではない。

「うーん…
普通にやれば、まずないでしょうね。
向こうは弓の名手、私は的に当てるのがやっとにございます。」

「どう致すのだ!!??」

俺はエティーナの肩を揺らす。

「そう、大きな声を出さないでくださいませ。
普通にやれば、と申し上げたでしょう?」

「はぁ…?
そなた何を企んでいる?」

私は陛下に耳打ちした。

「ば、ば、バレたらどうするのだ!?」

「その時は罰を受けますゆえ。
一か八かにございますよ。」

エティーナはにかっと笑ってそう言った。
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