バッカスの女神様はオトコを知らない
「何を言われても、一度持ち帰るということで、お願いします。
ひとすじ縄ではいかない相手で、つけこまれるとやっかいと聞いていますから」

「ええ、ええ、もちろんですわ。そうします。慎重に進めなければいけませんわ」

院長は今度は赤くなり、焦って答えた。

弁護士はシートベルトを外すと、かばんを手に取り車を降りた。

海風が入り込む。

知らない香りだ。

デラシアは目を閉じて、潮の香りを思いっきり吸い込んだ。

海は・・・かもめの声が響き合い、地平線に船の影が見える。

どこかの遠い国、顔の知らない父か母とつながる海。

< 12 / 74 >

この作品をシェア

pagetop