バッカスの女神様はオトコを知らない
<ダニエル・レガートの交渉>

案内された部屋で、ダニエル・レガートとその紳士は名乗った。

慇懃無礼、その奥に凶暴さが隠されている、いや、チラチラ見せているというほうが正しい。

濃いブラウンのくせ毛、意志の強そうな鼻、理知的な額

背が高く、肩幅は広く胸板は厚い。

仕立ての良いスーツを着て、鍛えられた体であることがわかる。

冷酷な瞳は深海の青、暗い海を思わせるが、肉食獣のような光を灯している。

ハンサムだが、その態度は尊大だ。

「レガートさん。お名前から察するにイタリア系ですね。」

弁護士が話題のきっかけをつくるために、愛想笑いをすると、

「ええ、爺さんがイタリアから移民で来たから」

ダニエル・レガートはぶっきらぼうに答え、大きな執務机から高級葉巻の入った箱を取り出した。

「レガートって音楽では二つの音をなめらかにつなぐ・・・という意味ですね」

音楽教師でもある修道院長は、気の利いた言葉を続けた。

「ははっ、うまいことをおっしゃる。確かにそうかもしれません」

レガート・・・
この人は「いったい、なにをつなぐのだろうか」・・・酒と犯罪とか?

神業界には、まずこのような獰猛なエネルギーを発するオトコはいない。
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