バッカスの女神様はオトコを知らない
「社長!!調べさせましたが、16番は確かに樽が痛んだ箇所がありました。

それでテイスターを呼んで、確認させましたが、わずかにカビ臭がすると言っています。
あと2番と18番の樽ですが、水増し疑惑があります。

納品業者が違うので、明日、もう一度、製造元に確認しますが、よろしいですね」

マークスの声が、怒りの色合いを帯びた。

「ああ、不正は許されないな。特に俺のテリトリーでは裏切り者は許さない」

ダニエルが立ち上がった。

「さて、院長殿、今日はお帰りください」

「その・・契約で共同経営の件は・・・」

弁護士がダニエルの顔色を伺うように、聞くと

「水増し疑惑の結果は明日になるが・・・共同経営の方向でいいだろう」

それからデラシアを見た。

「シスター、礼を言う。もう少しで不良品をつかまされるところだった」

デラシアはうなずいて、

「それでは寄付をお願いします。修道院は今、とても困っていますので」

「ローズベリー!!こんな場所で!そのお話は後で」

院長は白目をむいたが、デラシアは無視して頭を下げた。

「ふふふ、面白いシスターだな。わかった。寄付もしよう。
近いうちに俺の方で書類を持って、修道院のほうに伺おう」

ダニエルは立ち上がり、軽く上着の埃を払ってから、地上に出る階段を上がっていった。

聖書のダニエルは、頭脳明晰で容姿の優れた若者とされている・・・

デラシアは、その広い背中を見送りながら目を細めた。
< 25 / 74 >

この作品をシェア

pagetop