バッカスの女神様はオトコを知らない
ダニエルが宿舎として指定したのは、彼の所有している館のひとつだった。

壁面を浮彫のレリーフで飾られ、ピンクがかった石壁が美しい2階建ての館。

中庭は狭いが、中央に噴水もあった。

厨房の下働きが、こんな豪華なお館に泊まってよいのだろうか?

デラシアの素朴な疑問だった。

「ここなら王宮に近いし、バスも近くで乗れるから、修道院にすぐ帰れる」

「ここは・・・どなたか住んでいるのですか?」

キョロキョロして、周りを見回しているデラシアに

「いや、誰も住んでいない。
ここは王宮に用がある時に使うだけだ。
ホテルより落ち着くからな。通いで掃除人が入るくらいだ」

ダニエルは、ポケットから鍵を取り出した。

「玄関の鍵だ。アンタが好きに使ってかまわない。
何か必要なものがあれば、マークスに言え」

ダニエルの手にある鍵・・ではなく、デラシアの目にとまったのはその右手だった。
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