バッカスの女神様はオトコを知らない
<宴は突然始まる>

デラシアが王宮で働きはじめて、10日ほどたった。

朝は5時半に祈りを捧げる。

7時に家を出て、王宮の厨房で、野菜を洗うことから始まり、掃除や下ごしらえなど、絶え間なく仕事をこなさなくてはならない。

毎日へとへとだが、色々な種類の食材に触れたり、匂いを嗅ぐことは新鮮で学ぶことも多い。

そして夜は、2階の客間の一室で、酒の専門書と格闘する日々。

デラシアは本にアンダーラインや書き込みがあるのに、気が付いた。

誰かが勉強した痕跡。

その筆跡は急いで書き殴った感じだが、知識を得るための努力をしていたのがわかる。

いったい、誰がこの本で、学んだのだろうか?

何冊かの裏表紙に「レガート」と署名があったので、デラシアは納得をした。

彼は努力をしている姿を、他人に絶対に見せない・・・

なるほど。

デラシアは頬杖をついて、パラパラとページをめくった。

そして、ダニエルが腕まくりをして、必死で勉強をしている姿を想像した。



バタン、バタン、バタン、バタン・・・

気が付くと、1階の玄関ホールが、やけに騒がしい。

男の怒鳴り声や女の嬌声が、高い天井に響く。

「まだ、酒が足らんぞ!!」

「そうだ!!ダンスをしよう」

デラシアは急いで2階の階段の手すりにしゃがみこみ、下の様子を伺った。

ダニエルと数人の男、着飾った女たちが、玄関ホールの椅子やじゅうたんに座り込んで大声でしゃべっている。

しかも、かなり酒臭い。

ダニエルも赤い顔をしているところを見ると、酔っ払っているのだろう。

レコードをかけ、大音響の中、酔っ払いたちのダンスが始まった。

ダニエルは、孔雀のように派手な羽をいっぱいつけた若い女と、抱き合うようにダンスをしている。

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