バッカスの女神様はオトコを知らない
デラシアは階段の手すりの隙間から、じっと観察をしていた。

ふぃっと、ダニエルが顔を上げて・・・
デラシアの視線と合った。

深い海と、雨が降りそうな空がつながった瞬間。

ダニエルが不審そうに眼を細めて、ステップを止めた。

そのまま、ずんずんと大股で階段を上がって来るので、デラシアも本を胸に抱いて、仕方なく立ち上がった。

「ははぁ、忘れていた!!ここは教会、いや神殿になっていたんだ。
バッカスの女神様がいる」

「私は女神ではありません。ローズベリーです」

ダニエルは、くふふふと笑いながら

「ローズベリー、薔薇とベリーか。面白い取り合わせだな」

「美しき薔薇の女神様、どうかダンスのお相手を」

ダニエルはおどけてデラシアの前にひざまずいて、手を差し出した。

「ダンスはいたしません。
それにローズベリーというのは、私が赤ん坊の時に、薔薇とラズベリーの茂みの間に捨てられていたので、院長先生がつけてくれた名前です」

その答えを聞いて、すっと酔いが冷めたようにダニエルが立ち上がった。

「・・・悪かった。・・勉強の邪魔をしたな」

そう言うと、階段を降りて

「さぁ、ここで騒ぐのはダメだ!!場所を変えよう。
フランクの店ならまだ開いている」

ダニエルは両手を広げ、騒がしいガチョウたちを追い出すように玄関から出ていった。
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