バッカスの女神様はオトコを知らない
マークスの説明に、デラシアはうなずいた。

密やかな感情、甘く少し苦い風味がする感情。

ダニエルとのキスから生まれた、はちみつ酒と同じ。

「シスターはこれからどうされますか?
お帰りになるのなら、修道院までお送りしますよ」

「いえ、ジュリアに手荒れに効く軟膏を渡すのと、王宮の料理長に挨拶をして戻ります。
ありがとうございました」

デラシアは立ち上がり、頭を下げた。

明日から、5時30分の祈りから始まる日常

薬草リキュールで忙しくなるが、修道院の聖務日課は変わらない。

野薔薇は・・・、蜜蜂は誰?

沸き起こった感情のさざ波を押さえるように、手を胸に当てデラシアは部屋を出た。

デラシアは戻ると、使用人の部屋ですぐに荷物をまとめた。

専門書を書き写したノートは、宝物だ。

伝統を守るだけで満足してはいけない、より高みを目指す・・・それは、ダニエルから学んだ。

ジュリアがいなかったので、テーブルに軟膏の壺とお礼の手紙を置いた。

さて、王宮にいかねばならないのだが・・・

この恰好ではマズイ・・・

王宮では普通の娘、デラシア・ローズベリーなのだから。

いつもの白のブラウスと黒のスカートに着替え、灰色のベールをはずし、髪をまとめた。

今の時間なら、料理長は出勤しているはずだ。
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