バッカスの女神様はオトコを知らない
振り向くと、横にダニエルが立っていて、ウェイターたちと話をしている。

「何か足らないのがあったら、言ってくれ。すぐ運ばせるから」

「フラスカーティの在庫がなくなった。瓶ごと持っていったべっぴんさんがいたからな」

ウェイターがデラシアに目配せをした。

「はぁ?瓶ごと?」

まずっ・・・

ダニエルがまだ気がついていないようなので、デラシアはそっと暗闇に紛れ込むように離れた。

カツカツカツ・・・

はき慣れないヒールで、走ることが難しい。

おまけにウェストが絞られているので、よけい息苦しさがこみ上げてくる。

すぐ脇の木の茂みに入り、呼吸を整えるために、石壁の狭い隙間にしゃがみこんだ。

ダニエルがいなくなれば・・・

身を縮めるようにして、ワインの瓶をしっかり抱きしめた。

「おいっ・・・」

「ふへっ」

デラシアが見上げると、ダニエルが目の前に立ちはだかっている。

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