バッカスの女神様はオトコを知らない
無数のしみは雨漏りが原因だ。

古い屋根には腐りかけている部分がある。

壁のタペストリーは変色と劣化でボロボロになってきているし、信徒の座る長椅子はガタついている。

窓ガラスはひびが入り、木枠が腐りかけていて、信徒から「祈りの最中に落ちたら危険だ」という苦情も寄せられていた。

修理をしてくださいと祈りを捧げても、金は天から落ちてくるはずもない。

改善するためには、現金がすぐに必要な状況であることは、自明の理だ。

「この件について、その実業家と会います。あなたも責任者として同行をしてください」

デラシアはスカートをつまみ、軽く頭をさげた。

従順・・・この場所でNOは存在しない。

院長は続けた。

「それに、お酒の管理から離れれば、あなたも修道女として終生誓願を立てられるでしょう?」

「はい」

デラシアは頭を下げた。

つまりは・・・公認で酒が飲めなくなる・・・死活問題だ。

デラシアは能面のように無表情を装ったが、口元は大きく歪んでいた。

これは・・なんとかしなくてはならない。
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