【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
第十話 桜の邂逅(前) side.和仁
桜花組組長の一人息子として生まれた俺は、幼い頃から次期組長となるために厳しく躾けられてきた。
「良いか和仁、いつかはお前が桜花組という大家族を率いることになる。傘下も含めた全ての者たちをお前が統率するんだ」
組長である父は、徹底して上に立つ者としての在り方を俺に叩き込んだ。
裏世界での生き方、警察公認の極道としての仕事、一から学ばされた。
拒否権なんてなかった。たった一人の跡取りである俺が桜花組を継がない選択肢などない。
父の敷いたレールの上を進むしかなかった。生まれた時から裏世界で生きることを義務付けられていたのだ。
警察公認とはいえ、所詮はヤクザ。
生まれた時からカタギとして生きる道が閉ざされた人生に辟易しながら、それでもこの世界で生きるしかない自分の宿命を呪った。
「次期組長となる男は、桜の家紋を刻むんだ」
「そんなもの、俺には必要ない」
極道ならば誰もが体に刻むであろう刺青を拒否したのは、せめてもの反抗心だった。
どうせカタギになれない身の上なのだ、見た目だけでも極道ものに染まってやるかと思った。
俺が十八の時のことだ。
「若! どこですか? 若ー!」
俺を探し回る組員たちの目をすり抜け、裏口から抜け出した。
高校には通っていたが、この頃から既に組の仕事には片足突っ込んでいた。