【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
四六時中見張られているようでうんざりして、少しくらい一人の時間が欲しかった。
ふらっと外に出て自由になりたいと思っていた時、突然どこからか声が聞こえた。
「あの! そこの人〜!!」
「え?」
振り返るも誰もいない。キョロキョロ周りを見回すが、やっぱり誰もいない。
気のせいなのか? と首を傾げる。
「上だよ! 上ー!」
「は?」
上を見上げると、黒いセーラー服を着た黒髪セミロングの少女が木の上に登っていた。
少女は腕に猫を抱えている。
「そう! あなただよ!」
どうやら彼女は俺に向かって声をかけているらしい。
これが俺と美桜との出会いだった。
大きな桜の木の上に立つ女は、俺を見下ろしながら言った。
「あのさ、お願いがあるんだけど。降りるの、手伝ってくれないかな……?」
「は?」
思わず表情を歪めてしまった。
彼女は木の上で猫を抱きしめながら、ガクガクと足を振るわせている。
「いやあの、この子助けるために登ってみたけど、意外と高くて……」
「……アホなのか?」
「お願い! 助けてください!! こんな時に携帯もなくてぇ!!」
「はぁーー……」
何故降りれもしないのに登ったのか。
心底呆れながらも降りれなくなった彼女に手を貸す。
とりあえず先に猫を受け取って下ろしてやってから、彼女の手を取った。