【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
変なあだ名を付けられても困るから名乗ったのに、結局あだ名を付けられる。
まあどうせこの一回限りしか会わない。
そう思っていたのだが。
「あっ和くん! やっほ〜」
「……」
桜の木の下でサボりに行くと、ほぼ必ず美桜がいる。
最初は鬱陶しくて無視していたが、美桜はお構いなしに一方的に話しかけてくる。
「和くんってすっごいイケメンだよね。モテるでしょ?」
「今日中間試験だったんだけど、ぜーんぜんダメで。お姉ちゃんに怒られちゃった」
美桜は俺より二つ下の十六歳で姉がいるらしい。
姉を語る時の美桜はいつも嬉しそうだった。
「うちのお姉ちゃん、めちゃくちゃ美人なんだよ! 妹の私から見てもすごく綺麗で、私と違って頭も良いしなんでもできるの」
姉のことが大好きでたまらないらしく、いつも自慢げに語っていた。
兄弟のいない俺にはよくわからなかった。
まあ舎弟ならいるが。
「最近楽しそうだな」
俺にそう言ってきたのは幼馴染であり桜花組を管理する警察一族・満咲の跡取り、信士だった。
俺は驚いて信士に聞き返す。
「楽しそう? 俺が?」
「ああ、そう見えるぞ」
自分で言うのも難だが俺は愛想が悪い。
普段から仏頂面の自覚はあるし、笑うということがどうにも苦手だった。
その俺が楽しそうに見えるのか?
「何か良いことでもあったのか?」
「別にない」