【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 最早わざとやっているとしか思えない。
 桜花と染井が手を組むなど有り得ない話だというのに。


「いくら信士さんであっても、それは了承しかねます。……桜花みてぇな腕っぷししかねぇ犬どもがいたんじゃ、足手纏いにも程がある」
「なんだと……?」
「おやめなさい、義徳」
「申し訳ありません、お嬢さん」
「とにかく、この件は染井に任せていただきましょう。桜花組(あなたがた)の出る幕はないわ」


 彼女は冷たく言い放ち、鬼頭を従えて立ち去ってしまった。

 染井美咲は女だからといって油断はできない。
 女組長さながらの統率力とカリスマ性で一癖も二癖もある染井一家の男たちをまとめ上げ、圧倒的強さを誇る鬼頭を完全に従えている。


「……残念。二組が手を組めば最強なのになぁ」
「くだらん話はするな。それだけは絶対に有り得ない」


 桜花と染井は互いに勢力を拡大し、今や関東極道の双璧と謳われている。
 どちらも満咲の管理する警察公認の仁義を重んじる組ではあるが、志すものは違う。

 だからなのか昔からいがみ合い、対立していた。
 それはこれからも変わらない。
 たとえ表向きは和議を交わしていたとしても、表面上のことに過ぎない。

 ……信士は二組を協力させたいらしいが、それは無理な夢物語だ。

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