【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
俺が桜花組の若頭だと知れば、きっと美桜も俺から離れていくだろう。
いつもそうなのだ、俺の容姿に惹かれて近寄ってくる女はいても家のことを知ると皆逃げていく。
別にそれで構わないのだが。
「……!! 和くん……っ!!」
一瞬の隙を突かれ、思いきり頭を殴られた。
ポタリ、と赤い血が地面にこぼれ落ちる。
「和くんっ!!」
美桜は泣きそうな表情で叫んだ。
生憎だが、この程度は何でもない。
ぺっと唾を吐き捨ててから額から滴る血を拭う。
「――ぐっ……」
二発目を食らう前に奴の懐に潜り込み、顎下から思いきりアッパーを食らわせた。
起き上がる前に(早々起き上がれないと思うが)美桜の腕を引っ張り、漫喫から脱出する。
「っ、はぁ……っ、怪我はないか?」
「私もユリも大丈夫だけど、和くんが……」
「俺は大丈夫だ」
ユリというらしい美桜の友人もガクガクと震えていたが、無事だった。
一旦はウチの車の中に二人を匿おうと思った直後、背後からこれまで以上に危険な殺気を感じ取る。
「……っ!」
咄嗟に右手で受け止めたが、そのパンチは金棒で殴られた時よりも重さと衝撃があった。
思わずよろけそうになるが何とか堪えた。
「吉野、テメェ……っ」
「鬼頭……」
名前の如くまるで鬼そのものとも言える殺気を放っていた。
クソ、なんでここに鬼頭がいるんだ?
「汚ねえ手で触るな!!」
「やめて、義徳くんっ!!」