【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
そう叫んだのは美桜だった。
「彼は私を助けてくれたの……!」
「助ける? この男が美桜お嬢さんを?」
「本当なの……だからやめて……っ」
美桜はボロボロ泣きながら鬼頭に懇願する。
鬼頭は俺に向ける拳を下ろした。
「何故桜花の若頭が染井のご令嬢を助ける?」
「染井……?」
「この方を知らねえのか。美咲お嬢さんの妹、美桜お嬢さんだ」
美桜が染井一家の娘……?
「っ、ごめんなさ……隠してたわけじゃないの……」
「お嬢さん、行きましょう」
「あ、でも……っ」
「あの男はこの程度でくたばる野郎じゃない。行きましょう」
「……っ」
美桜は俺に何かを訴えかける目をしていた。
だが大人しく鬼頭に連れられ、友人共々鬼頭の車に乗って走り去ってしまった。
俺はその車が小さくなっていくのを見つめていることしかできなかった。
「和仁、こっちは終わった」
しばらくして峰たちが出てきた。
ドラッグの売人たちは全員伸びており、店の中はめちゃくちゃだった。
どうやら派手に暴れ回ったようだ。
「ドラッグの出どころも吐かせた。あとは警察に任せよう」
「……ああ」
「血が出てる。和仁を流血させるなんて余程の猛者がいたのか?」
「何でもない。ただのかすり傷だ」
そう、こんな傷は何でもない。
そんなことよりも、美桜は無事に帰れたのか。
そればかりが頭の中をぐるぐると巡っていた。