【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
それがカッコいいとは思ったことがなかった。
「私はね、桜花組のこともすごくカッコいいと思ってるよ。染井である私がこんなこと言うなんて変かもしれないけど」
「……ああ、変だな」
「でもカッコよかったよ、和くん」
そう言って微笑んだ美桜の表情が、妙に焼き付いて離れなかった。
それから美桜と連絡先を交換した。
教えて欲しいと言われ、仕方なく教えた。
敵方の娘であることはわかっているが、危なっかしくて何をしでかすかわからないから教えた方が安全かもしれないと思った。
どこか言い訳じみてると思いながら、自分自身に蓋をした。
以来美桜とは連絡を取り合うようになった。
美桜はよく他愛のないメールを送ってくる。ワガハイと呼ぶ猫の写真は週に一度は送られてくる。
たまに電話もした。
いつも美桜が一方的に喋り、俺は聞いているだけだが意外に心地良い時間だった。
時々外で会うこともあった。
桜の木の下だけでなく、少し遠出して海を見に行くこともあった。
バイクの後ろに誰かを乗せて走ったのは、美桜が初めてだった。
「バイクの後ろって気持ち良いね!」
「乗ったことなかったのか」
「義徳くんは危ないからって絶対乗せてくれないもん。お姉ちゃんのことは乗せるのに」
美咲に言いつけられているからなのか、鬼頭も美桜に対して過保護らしい。
「だから、和くんの後ろは私だけの特等席がいいな」
「……好きにしろ」
異常な事態だという自覚はあった。
桜花組の若頭と染井一家の娘が通じているなどと知られたら、俺は破門かもしれない。
染井の奴らは好きじゃない。むしろ嫌いだし、どんなに信士が望もうが手を組むつもりなどサラサラない。
それでも――、
“――和くん!”
美桜と過ごす時間は心地良く、何にも変えがたいものになっていた。
美桜と過ごす間は自分が桜花組次期組長だと忘れられた。
いつしか美桜に心惹かれるようになっていた。
そして、美桜の気持ちも何となくわかっていた。
「あのね、和くん。私……」
これが許されざる想いだったとしても、気づいてしまえば抑えられない。
「美桜……」
「っ、和くん」
敵対する者同士でありながら、どうしようもなく惹かれ合ってしまった。