【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 翌日、突然拷問部屋の扉が開いた。
 顔を真っ赤に腫らした俺に向かって、父は言った。


「和仁、見合いをしろ」
「は……?」
「お前に相応しい相手と結婚するんだ」
「ふざけるなっ!!」
「ふざけているのはお前だ。いい加減目を覚ませ」


 美桜以外の女と結婚だと……?
 絶対に有り得ない。


「桜花と染井は和議を交わしている。だが満咲の面子を保つためのまやかしにすぎん。奴らと分かり合えることなど一生ないのだ」
「そんなの、わからないだろう……!」
「黙れ! お前に何がわかる!! あの女も染井の女だ。お前を裏切るに決まっているだろう!!」


 その時、腹を決めた。
 ここにいては俺は一生父の言いなりだ。

 美桜と一緒にいられないのなら、こんな家は捨ててやる。

 あの頃の俺は若かった。
 頭に血がのぼって後先のことを何も考えられていなかった。

 ただ美桜と一緒にいたい。共に生きたい。
 それしか考えられなかった。


「……美桜か?」
《和くん……》


 電話越しの美桜はどんどん弱々しくなっているように聞こえる。
 美桜も家の中で軟禁状態にされているそうだ。


「俺と一緒に来てくれないか」
《和くん、でも……》
「頼む、美桜。俺は美桜と一緒にいたい」


 こんなに何かを望むのは生まれて初めてだった。


「美桜と一緒にいられるなら、組なんか捨ててやる」
《そんなのダメだよ!》
「俺は組より美桜が大事だ」
《っ、和くん……》


 鼻をすする声が聞こえた後、美桜ははっきりと言った。


《わかった。私も和くんと一緒にいたい》
「美桜……!」
《私も和くんのことが一番大事だよ》
「ありがとう……」
《私の方こそ》
「明日、いつもの桜の木の下で落ち合おう」
《うん……!》

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